hantefu 君が一晩で仕上げてくれました
俺の論の補強と強化を。
・・・・・・('A`)はんてふぅ・・・しっかりしろよお・・・・
はんてふ君(もう面倒だからひらがなのほうでいいよね?)が一晩中探し回った反論の論拠とするらしい判決文。やっとみつけたようです。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=52569&hanreiKbn=01
コメントしとけって mention いれといたのに,@も飛ばさずコッソリ Tweet するあたり,通用しないかもしれないから反論したつもりにだけなっておこうと思ったのかな?
正しかったね。それ,俺の論の補強になる判例だわ。
俺の論を訂正しておきます。
契約実行時に信義誠実の原則は関係しないと書いてきましたが,関係します。ただし,「契約の通り実行しなさい,契約者のうち一方が不利になる場合はその旨通知しなさい」という意味で。
生島君の言う「契約書に書いてある以上のことをしなさい」ではなく,この判決文では「契約の実体が変更されるときは通知しなさい」であって,勝手に契約の解釈を変えるな,イコール,「これくらい常識」と一方的に契約にない事をするな,という判決文ということです。
はんてふ君,ありがとう。君が提示した判決文のおかげで,生島の首がまた絞まったよ。
判決について読んでみましょう。
判示事項 加入電話契約者の承諾なしにその未成年の子が利用したいわゆるダイヤルQ2事業における有料情報サービスに係る通話料のうちその金額の5割を超える部分につき第1種電気通信事業者が加入電話契約者に対してその支払を請求することが信義則ないし衡平の観念に照らして許されないとされた事例 |
ないし。数値を結ぶとき,たとえば判決文全文の中にある「平成3年2月分ないし同年5月分」の場合は「2月から5月まで」の意味ですが,そうでないときは「または」の意味ですね。・・・・信義則だからというわけではない,と。
ええと。まあ,信義則に関するものとして読みましょう。ここで言う「ないし」というのは「or」ですから,信義側ではないという意味ではありませんし。
加入電話契約者というのは親のこと。この事件は子供が勝手にQ2ダイヤル(懐かしいですね)に電話をかけまくった情報量と通信料について,その支払いを求められるかどうかの裁判です。
請求された高額な通話料にビックリした親御さんがお子さんを問いつめたところ(想像),Q2で遊びまくっていたことが判明。そんなことになっているとは知らなかったぞと,該当する分の通話料などの支払いを拒否ったところ,地裁では払わんでもええよ,といわれたので業者側が上告した,というわけです。
なので,上告人は業者,被上告人は親御さんということになります。
裁判要旨を抜粋しましょう。
いわゆるダイヤルQ2事業を開始するに当たって,同事業における有料情報サービスの内容やその利用に係る通話料の高額化に容易に結び付く危険性等につき具体的かつ十分な周知を図るとともに,その危険の現実化をできる限り防止するために可能な対策を講じておくべき責務があった |
ものっそ大雑把に言えば,契約とはいえ勝手にサービス変更しといて利用料取るな,という意味です。
とはいえ約款を前提に電話サービスを受ける契約になっているので,請求額の半額で手をうちなさい,と。
ここだけ見たら確かに契約の履行時の話に見えてきそうですが,要するに契約の履行時に契約を「妙な解釈で実行すな」という意味です。
PDF で全文が読めますので読んでみましょう。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120938517308.pdf
信義則に関するところを引用します。
原審(地裁での裁判)ではどうだったか。
第3 前記事実関係の下において,原審は,次のとおり判示して,被上告人には 本件通話料の支払義務はなく,上告人の本訴請求のうち本件通話料に係る分を棄却 すべきものと判断した。 上告人が,各加入電話契約者の意思を具体的に確認することなく,Q2情報サー ビスを既設の電話回線から一般的に利用可能なものとしてダイヤルQ2事業を創設 し,第三者利用やこれによる利用料金の高額化等の危険が十分予想されるにもかか わらず,上記サービスの内容やその利用規制等につき加入電話契約者に告知してお らず,被上告人もその存在すら知らなかったこと,Q2情報サービスの目的が情報 の授受にあり,情報提供時間に比例して通話料も増加していく関係にあって,この 場合の通話料は,同サービスの利用に係る情報の授受によって初めて発生し,通話 それ自体から生ずる一般通話における通話料とは発生経緯を異にしていること,Q 2情報サービスに係る情報料と通話料は,最終的な帰属先を異にするとはいえ,本 件加入電話からの通話により情報提供者との情報提供を目的とする契約が成立する 関係にあり,上告人においても,電話加入契約者に対し,情報料と通話料の区別な く一体として請求していたこと,本件通話料の金額が,本件加入電話の従前の通話 料に比して著しく高額であり,被上告人にとって予想外の金額であることなどにか んがみれば,上告人が,被上告人に対し,本件通話料につき,本件約款118条に 基づいてその支払を請求することは,信義則に反し許されない。 |
ややこしいですが,上告人は電話事業者,被上告人が親御さんです。
> 上告人が,各加入電話契約者の意思を具体的に確認することなく,Q2情報サー
>ビスを既設の電話回線から一般的に利用可能なものとしてダイヤルQ2事業を創設
>し,
無断で新サービスを開始し,
>上記サービスの内容やその利用規制等につき加入電話契約者に告知してお
>らず,
ちゃんと通知もしてなくて
>同サービスの利用に係る情報の授受によって初めて発生し,通話
>それ自体から生ずる一般通話における通話料とは発生経緯を異にしていること,
そもそも本来の契約とは違う料金発生理由のサービスであり
>Q
>2情報サービスに係る情報料と通話料は,最終的な帰属先を異にするとはいえ,本
>件加入電話からの通話により情報提供者との情報提供を目的とする契約が成立する
>関係にあり,
Q2を利用するということはQ2事業者との契約が成立する形態であった。
>情報料と通話料の区別な
>く一体として請求していたこと,本件通話料の金額が,本件加入電話の従前の通話
>料に比して著しく高額であり,被上告人にとって予想外の金額であること
だけど,通話料と一体化して請求され,それがやたら高額で親御さんビックリした。
なので,
>上告人が,被上告人に対し,本件通話料につき,本件約款118条に
>基づいてその支払を請求することは,信義則に反し許されない。
そんな新規契約に結びつくような新サービスをやっときながら通話料として請求したらあかんよ,という判決を下す。
第一審,つまり地裁の判決では,「勝手に契約させるようなサービスを黙って開始しておいて料金徴収すな」というものでした。契約の義務をしっかり守れというもの。
これに対し高裁では,
第4 しかしながら,原審の前記判断のうち,上告人の本件通話料請求について 信義則を考慮した点は是認し得るとしても,同請求が信義則に反するとしてこれを すべて棄却すべきものとした点は,直ちにこれを是認することができない。その理 由は,次のとおりである。 |
と判断しました。「信義則を考慮したのはいいけど,全額棄却はちょっとあかんのとちゃう?」といったところ。
それは何故か。引用するの面倒くさくなったので判決文見ながら読んでください。
- 加入電話を契約者以外が使った場合の通話料についても,特別な事情が無い限り契約者は支払い義務を負う(約款に書いてある)
- その約款は充分納得できるものである
- だから,親御さんは業者に支払い義務があるといえる。
- とはいえ,本来情報通信役務の提供とそれに対する料金の支払いという話を中心とした契約だよね
- 契約に対する事実関係が変化して,契約者の予想外な結果を招くようなときは,しっかり検討しないといけないよね
- そもそも電話が普及したのはふつうの電話利用を前提にしたらそれなりにリーズナブルだからだよね
- 業者はちゃんと通話できることを期待されているよね
- 電話会社の民営化に伴って新しいサービスとか出てくるのは,まあ仕方ないよね
- でもQ2は際限なく料金が高騰する可能性があるよね
- それって日常的な通話って範囲からズレてるよね
- となると,電話加入者は電話の使われ方を自分で制御できないといけなくなるよね
- でも事業者は事業に関する情報を独占してたよね
- 事業者は客にちゃんとQ2ってこういうリスクがあるよ,嫌だったらこうやって止めてねって案内すべきだったよね(責務)
- 国内ではQ2はじめて実施したけど,事業者は外国の先例知ってたでしょ?
- 事業者は二個上の「責務」を果たす必要があったよね
- これって一方の契約者(親御さん)が不利になって,実際に高額請求になったよね
- この状態では信義則上相応の制約を受けるよね
- 約款の規定があるからって,Q2の危険性や止め方をちゃんと周知してなかったら事業者が一方的に有利だよね
- つまり,「契約の不十分な実行は信義則上よろしくないよね」
- でもまあ,電話の使い方は加入者側でどうとでもできるし
- 五割の支払いで手をうちなさい
あとの補足意見を見ても,「加入者の期待を裏切って高額請求につながるサービスをこっそり始めたらあかんやないか」「ちゃんと加入者も納得できるように通知しなさい」「新サービスの提供時にもそれまでの契約で予測された関係を守るのは信義原則上必要ですよ*1」「実際,事業者はちゃんと説明したりしてませんでしたよね」「加入者が知っててやったんなら別ですけど」「しかも加入者(親)の知らん間に子供が勝手にやったわけで」「そうならんように事業者は加入者に新サービスの提供について周知徹底しないといけなかったよね」
という話でした。要するに,契約書を盾にとって勝手な真似すんな。というわけです。
生島君が言っていたのとはかなり違いますね。勝手な事すんな,という判例ですから。
補足意見の法理に奥田裁判官の補足意見が援用されています。
双務契約関係の存続中に,当該契約関係の存立の前提として両当事者が想定 していた事実ないし事情に著しい変更が生じた場合に,それが当該契約関係にどの ような影響を及ぼすか,また,当事者はそれに対してどのような対処の可能性を持 つかについては,第一次的には,当該契約の定めるところに従って規律されるべき である。しかし,それに関して契約において何らの定めもされていない場合には, 法律に明文の規定があるならばそれに従って規律されるが,法律に明文の規定を欠 く場合には,契約関係全体を支配する信義誠実の原則(以下「信義則」という。) にのっとって最も衡平妥当な合理的な解釈が導き出されなければならない(民法1 条2項参照)。 |
原則として契約書に書いてあるとおりしなさい,と言っています。
ただし,契約書に書いてなく,法律にも定義されてないときは,つまり,例外が発生したときは,最も公平かつ妥当な結論が導き出されなくてはならない。
しかしながら,一口に信義則といってもその適用場面ないしそれによる規律内容 は様々であり得るし,その規律が恣意に流れることになっては,かえって法的安定 性を害し,衡平にかなわない結果に終わるおそれなしとしない。それゆえ,信義則 に依拠すべき場合にも,できる限り,類似の利益状況に対する実定法上の他の諸規 定の規律内容とその基礎にある利益衡量及び評価を参照することが望ましいと考え る。 |
とはいえ,信義則といっても使い方とかその意味とかバラバラだし,信義則だからといって恣意的に勝手な解釈するのは法的安定性を損なうし,不公平になることもありそうだよね。だから,信義則を使わなきゃいけない場合でも,似た状況を定めた法律とか契約とか,そういうのに基づいたほうがいいよね
(なんでもかんでも信義則でやっつけるのはちょっとよくないよね)
以後,奥田裁判官が「これとか似た感じのこと書いてあるよね」という例示が続きます。保険関係の話。
そして,その例示から「これとか使えるよね」と指摘があり,その類似規定をベースに考えると,両者平等に半分ずつ負担する,つまり,契約者側からの半額の支払いで手を打ちなさい,と結論付けています。
全体を通して読むと,「なんでもかんでも信義則でやるんではなく,似た事例を扱う法をベースに考えたほうが合理的」といった解釈で判決が下されていることがわかります。
また,信義則の適用として,一方が著しく不利益になりうる事業の開始については,その詳細,危険性,回避策を適切に通知しなさい,という部分にかかってきています。これは,契約の部分不履行に関する話です。
いずれにしても,生島君が言っていたような,契約より常識が上回るという結論には至りません。
はんてふ君の「契約の実行時に信義則が適用されないわけではない」という反論の論拠は満たしますので,私の論を訂正いたします。
信義則に基づいて公平な契約を行い,事情の変化によっては再契約や契約解除を行う
加えて,信義則に基づいて,契約書に書かれた内容を誠実に実施しなければならない
さらに,信義則に基づいて,契約書に書かれた内容を一方の当事者に有利になるよう,または一方の当事者が不利になるよう解釈してはいけない
はんてふ君のおかげで私の論が補強強化される方向に修正できました。同時に,生島君の論拠がまたもや崩れてしまいました。
はんてふ君が一晩でやってくれました。ありがとうはんてふ君。
*1:事業者が利用者に充分な説明と回避策の提示なく新規サービスを提供して利用料を発生させるのはよろしくないですよ