プロバイダによる Winny 規制について、現在のやりかたは間違っているとした考え方の補足

 
 ISPによるWinny規制が良くない理由をちゃんと考えようコメントに書いたものからさらに抽出して。
 
 電気通信事業法に定められた以下の条文が、Winny の規制を行う際の問題になりうるのではないか。
 

http://www.houko.com/00/01/S59/086.HTM
第4条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
第179条 電気通信事業者の取扱中に係る通信(第164条第2項に規定する通信を含む。)の秘密を侵した者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
 
 ここで、「秘密を侵す」という表現が「秘密を漏らす」とは明らかに違うので、秘密の漏洩に対しての規定でではないのか?と思って調べた所、こんな記述を発見。

http://www.editnet.ad.jp/knowledge/000601.htm
「通信の秘密を侵す」とは,通信の内容を積極的に知得することや,秘密を他人に漏らすことなどが考えられます.(電気通信事業の従事者は通信の内容に容易に接することができる立場にありますが,正当な理由なくそれを知得するだけで通信の秘密を侵害したことになります.)
 
 さらに、ちょっと古いものではあるものの、総務省見解もある。
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/d_faq/d_faq_05.html
5−4  「通信の秘密の保護」に関する法律と「通信の秘密」として保護される範囲について教えてください。
○  誰にも通信の内容や通信の存在、相手方といった事実を知られずに秘密のうちに通信を行うことができることは、個人の私生活の自由を保障する上でも、自由なコミュニケーションの手段を保障する上でも大変重要なことです。
(中略)
○  電気通信事業法では、電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密を侵すことを禁じているのですが、ここで禁止行為とされている「秘密を侵す」とは、上に述べた通信の秘密の保障が及ぶ事項の秘密を侵す行為、すなわち、通信当事者以外の第三者がこれらの事実をことさら知ったり、自己又は他人のために利用したり、第三者に漏えいすることをすべて含むものです。正当な理由なくこれらの行為を行うと刑事罰に処せられることになります。
 通信の存在も保護される対象、ということになれば、「Winny による通信の存在」も保護されうる範囲と考えられる*1わけです。そのため、Winny の通信を認識して制限を加えるには「正当な理由」が必要と考えることができます。
 
 つまり、プロバイダは客の通信が具体的にどんなものか積極的に知るには「正当な理由」が必要、ということ。「正当な理由」とは他の条文、他の法律、あるいは判例によって認められた範囲となりそうです。一例では、犯罪捜査等の場合で令状が出た、というのは「正当な理由」に相当するので通信記録が捜査機関(第三者)に提出される、ということでしょう。
 
 「正当な理由」についてググってみたら「離婚の正当な理由」みたいなのがたくさんヒットしたんですが(苦笑)、どうも判例の積み重ねなど、やはり法の運用や解釈で正当かどうかが見られているみたいです。
 となると、判例のベースになる「法」は必須なんじゃないかな、といった考え方です。逆に見れば、Winny 利用者がぷららに対して「Winny の利用を検出して規制を行うことは通信の秘密の侵害にあたり、電気通信事業法憲法に違反する」として提訴したらどうなるのかな?といったことでワクテカしてみたりできそうです。
 また、電気通信事業法では「検閲の禁止」や「利用者の公平な取り扱い」が規定されていますので、帯域を喰っているからといって上限を絞る、という規制ですらグレーになってしまいかねません。ユーザに対して開放する帯域をいっせいに絞る、というのが完全にシロと言える規制方法なのかな?
(参考:http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0505/12/news025.html
 
 翻って現時点の Winny ですが、Winny ネットワークで違法な行為が繰り返されているとしても、Winny ネットワークを遮断することに法的な後ろ盾があるわけではありません。そのため、人が Winny の通信を判断してその操作を行う場合、ちょっとマズそうだな、というところです。ぷららの場合は、機械的に識別していれば罪を犯した主体となる自然人が発生しないからセーフ、という、言ってみれば法の網目をすり抜けるような規制方法です。
 つうか、ISP 側の言い分が自分の設備投資のミスやまだ違法化されていない Winny の遮断なら、電気通信事業法のこの条項にも抵触しかねません。これは spam 対策のフィルタリングにも絡む部分でしょう。
(提供義務)
第121条 認定電気通信事業者は、正当な理由がなければ、認定電気通信事業に係る電気通信役務の提供を拒んではならない。
 
 とはいえこれらは法律に疎い私の私見ですので、専門家に問い合わせたほうが確実です。
 
 大まかにまとめると、今現在の状況で Winny というアプリケーションのトラフィックを規制するには、その根拠となる法的なバックボーンが存在しない。それどころか、下手を打つと「通信の秘密」に触れてしまう。
 これを回避するには、Winny の恒久的規制を可能とする法整備を行う*2か、一時的なものとして規制解除時期を明らかにしておく*3かのどちらかではないでしょうか。
 

*1:Winny によって通信が行われている、という事実が通信の秘密における保護対象になる

*2:つまり、Winny の違法化

*3:一時的であっても規制が違法とされる可能性がないとはいえないんですが。