現実逃避中

 
 だめにんげんですがなにか('A`)
 
 
 さて。最近一部で人気の炎上系 Blog が炸裂しているというのでちょっと俺も尻馬に乗ってエントリを読んでみた。あまりのデムパ加減にほんのり癒されたのでネタにしよう。
 
 ネットの発言について発言者を容易にトレースできるべきだという主張。
 
 現実味がないばかりかデメリットが大きすぎて話にならない。まず、現実味のなさを指摘してみよう。
 どれくらい現実味が無いか。それは、コンピュータまでは特定できてもオペレータが特定できないことに気づけば理解できるだろう。一般的にコンピュータは操作している主体を区別しない。もちろん、アクセス権の設定によって、認められたユーザのみが操作できるよう制限することはできる。しかし、ログインしたまま放置して書き込まれた場合はどうしろというのだろう。
 ぶっちゃけ、ここにエントリを書いているのが「他力本願堂本舗のたりきとしてときどき原稿書いてる貧乏フリーライター」なのか、たり子なのか、パスワードクラックに成功した第三者なのか、これを読んでいる人には区別がつかないだろう。もちろん、はてなダイアリーのログを見ても俺が書いているとは特定できない。追跡していけば、今このエントリをポストしたのは確かにとある企業の外部接続用のネットワークを利用して接続したある端末である、というところにまでは到達できる。そして高い確率で俺が書いたと予測はできる、ということになる。
 だが、例外がある。俺のコンピュータにはペネトレ業務の都合上、ウイルス対策ソフトを導入していない。ツールも消されるからだ。となると、バックドアの存在を否定できない。誰かが他力本願堂本舗の備品を勝手に操作していないとは言い切れないということになる。手間はかかるが痕跡を完全に消すこともできないわけではない。技術的には身元を隠すことが不可能ではない、ということになる。
 そもそもネットワークの接続が機械を端末にしている以上、その端末を操作している人物を特定するためには何らかの方法で端末と操作者を紐付けなくてはならない。そのためにはどうする必要があるか考えれば、事実上コストがかかりすぎて不可能であるということに気づくだろう。
 
 IT系を名乗るならそれくらい気づきそうなものだが。
 
 現実味の無さはそれだけではない。仮に発言者を特定できるようにしても、それは必ず悪用される。俺の気に食わない発言をしたアイツは誰だ。ただそれだけの理由で個人を特定できなくてはならない。
 なぜならコメント発言者個人を特定できることが望ましいのは炎上している某所の主張によればサイトの管理者であって捜査当局ではないからだ。つまり令状等の手順を省略して誰でも簡単に問い合わせて結果を得られなくてはならない。それなら、「俺のサイトに書き込むあの娘は誰だ」という要求にも簡単に答えてしまう。妥当性を判断するのはサイトの所有者の主観だからだ。
 それを防ごうとすると炎上主の主張は矛盾する。実現できないということになる。
 
 法曹の大部分は論理的思考を訓練していないという噂も聞いたことがあるが酷すぎやしないか。
 
 リスクも大きい。
 二つめで例示したストーカーによる悪用だけでなく、平等な発言の機会を失いかねないのだ。
 たとえば、たかぎせんせいは発言にあわせて研究者としての立場や個人としての立場を使い分けている。しかし、常に個人の属性を紐付けることになれば、立場の違いを適切に分離して考えられない人に対応できない。肩書きを持って話す以上は公式のものとして判断する奴も現れる。つまり、発言者にそれらに対応するコストを負担させることになる。これは発言者にとって発言することにリスクを感じることになる。
 内部告発なんか到底できないことになるだろう。様々な面で発言が抑圧される。表現の自由が端的に阻害されるわけだ。表現の一方法として匿名での発言が認められるべきだが、それを制限しろと言っているのに等しい。
 それだけではない。発言者が容易に特定されうるということは、場合によっては制圧できるということに繋がる。政治家の批判やマスコミ批判は難しくなるだろう。それが正当なものであっても、個人情報の開示をサイトの主が主観的に要求できるべきだという主張に基づけば、サイト主が気に食わない発言をした者を追い込むことができる。極めて簡単な方法には美人局がある。痴漢扱いしてやればいい。下半身の醜聞を流せばいくらでも追い込めるし、本職を使うことも考えられるだろう。権力者が発言を封じ込めるにはとても便利な方法になる。
 大多数の「サイレントマジョリティ」がインターネットの普及と共に手にした匿名での発言機会を奪うことは、声のデカイだけのマイノリティが再び発言権を取り戻そうとしているようにも見える。
 既得権益を守るためには、声のデカイ、あるいは威圧できる組織をバックにできる者以外を封じればいい。一見発言には自由があるように見せかけて追い込みの可能性をちらつかせて黙らせる、卑劣なやりかただ。
 炎上主は最近「コメントスクラム」なる造語に続いて「卑怯系コメンテーター」なる造語も生み出した。現実を把握できていないのはこの二つの造語を見るだけでも明らかだが、一言言っておこう。
 
 肩書きナシで喋れないのか?卑怯者だな。
 
 さて。
 
 みんなでトーアでもいれるか?