法の専門家の思考プロトコルに添ってlibrahack事件に関する指摘をまとめてみる

 
 簡易版らしいけど,続・岡崎市立図書館事件(3) - おおやにきで提示されている「全体の枠組み」の表に,#librahack 等で指摘された問題点や疑問点等を当てはめてみる。なお,おおやにきでの岡崎市立中央図書館事件に関する分析はこの表だけでなく,本文中で解説や補足,またコメント欄での補足も行われているため,オリジナルの「続・岡崎市立図書館事件(3) - おおやにき」を参照して欲しい。
 基本的におおやにきの表をまるまんまコピーしてきてから作業しているのでそこんところ注意。オリジナルはおおやにきにある。
 ここでの取扱はおおやにきへの反論ではなく示された表を思考ツールとして使ってこれまで #librahack でなされてきた議論や検証の結果等を整理することを目的にしているのでそこんとこ誤解なきよう。
 

  • (1) 犯罪=違法かつ有責な行為 ......両方が揃わないと刑罰の対象にはならない。
    • (2A) 違法性=構成要件に該当し、被害と因果関係があること。
      • (3A) 構成要件該当性:ここでは欺罔・誘惑、あるいは錯誤・不知を利用したこと。
        • 本事件においては「甚だしく困惑」した事実はない。クロールの開始から逮捕までのおよそ二ヶ月の期間において,最大四回の再起動を強いられたことを指して偽計が成立するかどうか争う余地がある。
      • (3B) 被害:利用者からの苦情に伴う再起動作業の発生(最大四回)あるいはハズレクッキーの発行による一部利用者の検索機能利用不能状態の発生
      • (3C) 因果関係:物理的な因果関係があっても、刑事法上は否定される事例もある。(**)
        • 被害の実態は「WEBサーバとDBサーバの間でコネクションが作れない」という状態であり,これは「WEBサーバがそのように作成された」ことに起因する。MDISは「不具合ではない」としており,第三者(MDIS)の故意(ソフトウェア設計)による被害だと考えられ,刑法上因果関係が切断される可能性がある。*1
        • 追記:Twitter で指摘された事柄。業務妨害は危険犯(抽象的危険犯)なので因果関係を論ずる必要がない,という指摘。ただし,これを侵害犯とする説も有力らしく,素人的には判断を保留して双方を併記するに留める。
      • (3D) 違法性阻却事由がない:違法性阻却事由として,正当業務行為であったことが指摘される*2
    • (2B) 有責性=故意・過失があり、責任能力があり、他に責任を否定する事情がないこと。
      • (3E) 故意(原則)・過失(定めのある場合)の存在:今回は故意犯のみ
      • (3F) 責任能力:今回は争いなし
      • (3G) 責任阻却事由がない:ほぼ争いなし

 
 こんな感じかな。私は法の専門家じゃないので,「いやそこは違うよ」という部分があるかも知れないけれども,おおよそ #librahack で議論されてきた内容を当てはめるとしたら上記のようになるんじゃないかと思う。
 つまり,「そもそも偽計業務妨害にあたらないんじゃないの?*3」とか,「検索できないハズレクッキーを発行するのはそもそもそういう仕様だったからであって librahack に責任負わせるのは間違ってんじゃないの?*4」とか「故意認定がちょっとおかしかったんじゃないの」とかそういう話が何ヶ月も続いているのよねというお話。
 

*1:それを立証するために #librahack では検証作業が続けられている。また,警察はその部分について捜査を行わなかったため,問題視されている

*2:正しくHTTPに則り,かつ,一般的なクローラの性能範囲に納まり,日常的なアクセスの範囲内であったと考えられる。#librahack での主な主張のひとつ。

*3:ごくふつうのクローラ=正当業務行為だったんじゃないの/業務妨害というほどの被害は発生してないんじゃないの

*4:MDISのソフトに原因がある=因果関係の切断