山田のキンタマがドクロ

 
 なんでキンタマからはじまった Winny ネットワーク上のトロイがこんなにも問題になるまで放置されたのか。その理由を遡れば、Winny の最初の逮捕者(2003年の終わり)よりも早い段階、2003年初頭の「Winny は利用しているだけで著作権侵害に相当する」という認識に遡る。
 Winny ネットワークに違法なコンテンツが溢れているのは既知かつ公知の事実だ。この状況で Winny ネットワークに接続することは、意図して他人の著作権を侵害していることに極めて近い。この解釈が、まず最大の要因として情報セキュリティのプロたちを Winny から遠ざけている。
 これはさらに遡って「不正アクセス禁止法」の施行まで行き着くことができる。不正アクセス禁止法によって情報セキュリティのプロたちはどこまでが違法になるのか困惑して研究の妨げになりかねないと一瞬萎縮したことがある。また、これによって「違法とされたものに対して目的がシロであっても触れることは危険である」という認識ができていることも忘れてはならない。同じことが個人情報保護法の施行でも起きている。過剰反応だ。
 
 要するに、ある程度以上にノウハウを持っていて、かつ、それがメシの種になっている連中*1は、自分が「安全な存在」でなければいけない。誰にとって?と聞かれれば、それは「メシの種を買ってくれる人にとって」だ。商売でやっている以上、客が安心して買ってくれなければ売り物にならない。
 
 正直に言う。買ってくれる客か、一緒にやっていける仲間とはいくらでも協力するが、なんでもかんでもケツ拭いてくれるだろうと思って待っているだけの厨房共にタダで手を貸す義理は無い。それがいちいち「接続しただけでマズい」という認識を持っているものに踏み込んでまでやらなきゃならないとなったらなおさらだ。
 最優先はメシの種だ。喰わなきゃやっていけない。趣味でやっているうちならいいけど、仕事に絡むと話は別だ。仕事には客がいる。客がメシ代を出してくれる。だから客の目線を最優先する。
 だから「合法であること」に執着する。客のためだ。今さら Winnyキンタマに感染するような馬鹿がどうなろうと知ったことか。
 俺は聖人君主でもなければボランティア精神に溢れたパトロンでもない。明日の米代を稼ぐために今日働いている。俺のショボいノウハウは食い扶持で精一杯だ。
 
 プロならわかるだろう。芸人だからといって街中でいつも芸を見せているわけじゃない。歌手だからと言っていつでも歌って聞かせるわけじゃない。同じことだ。ファンサービスくらいはするかもしれないけど、ファンは要するに客だ。客で無いなら帰れ、って点ではどの業界でも同じだろう。
 
 だから、プロだの専門家だのといった連中にとって Winny は 使「え」ないということになる。
 WinMX だったなら、UP0 パッチを適用した上で違法コンテンツをダウンロードしなければ、繋いで状況を把握するぶんには大丈夫だったろう。その結果、状況把握には問題が無かったはずだ。
 おいらも Winny を使ったことは無い。Winny を使える状態にして接続したら、それでアウトになる可能性があるからだ。
 たりくろすの再公開に躊躇するのは、あのツールが簡単に WEB サイトの問題点を悪用することができるからだ。不正アクセス禁止法に規定された助長行為は「アカウント情報」に限られているが、アクセス制御を回避する手段として認識された場合には同様の規制を受ける可能性が、なくはない。
 あんなショボいツールでも、だ。
 
 そのため、プロ連中は Winny の状況把握に立ち遅れた。クラックパッチがどれくらいあるのか、どんなコンテンツがどれくらい流れているのか、そのあたりは全く把握されていないといっても過言じゃない。
 プロは Winny ネットワークに対して無能になっている。俺も先述のとおり Winny については使ったことが無い。だから、Winny に関してどうすればいいのか判断ができない。だから、昨日一昨日と書いたように、どんなに頑張っても一周遅れだ。専門家の大部分は同じ状況にあるんじゃないかと思う。
 だから今、Winny ネットワークを汚染しているトロイについて最先端にいるのは情報セキュリティの専門家ではない。拠点を海外に持つ多くのワクチンベンダにとって日本市場はあくまでも一部に過ぎず、さらに Winny ネットワークはその部分集合にすぎない。それだけでなく、Winny の利用はそのまま違法行為であるという認識。
 これらが繋がれば専門家の言い分が明らかになる。
 「何故、自ら違法行為をしている連中を救わねばならない?」
 
 だから、トロイによって第三者の情報が漏洩され、被害が Winny ネットワークの外に波及したことが明らかになるまで、しかもそれが大規模になるまで手を「出さなかった」のだ。
 
 そしてその対策に、違法行為の停止(Winny を使わなければ良い)が最初に現れるのも当然だ。
 汚染され、違法コンテンツに充満したネットワークから離れれば、それ以上汚染は広がらない。さらに、ようやく表立って騒がれ始めたキンタマは当時 Winny ネットワーク上でのみ拡散した。Winny を使わなければ感染しても漏洩には至らなかったわけだ。第三者への波及はそれで食い止められた。
 これが、今では二周遅れとなった考え方だ。
 しかし、キンタマや山田は Winny 以外の感染経路や漏洩ルートを持つようになった。さらに、Share でも感染を広めることができるようにもなっている。ドクロは Share をメインの感染ルートにしている。
 もう Winny ネットワークを離れるだけでは対策とならない。ではどうすればよいかを考えているのが、トップ集団の連中だ。
 その間で事象の把握にウロウロしながらどうしたらいいのか考えているのが一周遅れの連中にあたる。
 
 つまり、専門家の大半は Winny ネットワークで起きている状況の調査そのものが困難である、ということだ。自分たちが「シロ」であることを担保するために、クロであることが明らかであると認識したものには触れることができないからだ。
 言ってみればまさに「宗教上の理由」に他ならない。ヒンドゥーだから牛は食えません、イスラムだから豚は食えませんってのと同じだ。専門家だから Winny には触れません、そういうことだ。
 
 だから、プロや専門家はあくまでも外部から Winny ネットワークにおけるトロイを論じる。中に踏み込むことができるのは一握りの者にすぎない。そして実際にその行為は危険だと認識されている。
 警察官のように違法な場所にもガンガン踏み込んで行くことができるわけじゃない。情報セキュリティのプロであろうとも専門家であろうとも、所詮はただの人だ。強いて言えば「効果的に自分の身を守る」ノウハウを持っているにすぎない。同時にそれは「自分*のみ*を守る」ノウハウでしかない。
 各人が自分の身を守ろうとしない Winny ネットワークに対しては何の役にも立たない。
 そこから躾なければならないようなデータ乞食が他の人の情報漏洩を引き起こしているという今の状況を改善するには時間もエネルギーも必要だが、そのエネルギーはプロ達には持ち合わせがない。
 先にも書いたが、「何故、自ら違法行為をしている連中を救わねばならない?」という問いが妨げにもなっている。
 
 だから、データ乞食に情報を渡すな、としか言えない。ハトの糞の害を防止するために「エサをやらないでください」と言うようなものだ。
 キンタマに感染するような馬鹿とハトを同列にするのはハトに失礼だが。まあ、ものの例えだ。
 
 Winny ネットワークそのものに罪は無いし、Winny というツールにも罪は無いだろう。ただ、利用者がそれらを汚してしまった。
 その尻拭いをこっちに持ってこられても困る。
 
 だから、Winny ネットワークを「もう焼き払ってしまえ」という考え方にも賛同できないわけではない。回復不可能なら安楽死させてしまえ、という考え方だ。
 ふと気がついてふたを開けてみたら完全に腐っていた。仕方が無いから容器ごと焼いてしまう。それがベストかどうかはわからないが、それもアリなんだろう。
 だが、きっとユーザは別の容器に移って、そこを汚染するだろう。
 
 もう山田のキンタマがドクロだろうとなんだろうと、救いようが無い。
 
 なら、せめて「次の容器に移ったときは汚染するなよ」と言い含めるくらいしかない。
 そのための躾の方法はどうすればいいんだろうか?そもそも誰がやるんだ?
 
 ペットのトレーナーだって公園で見かけた躾のなっていない飼い犬をわざわざ訓練したりはしないだろ?
 たとえその犬が飼い主の手を噛む暴れん坊だとしても。もしその犬が野良犬だとしたら?
 野良犬が病気にかかろうと知ったことじゃない。問題はその野良犬が他人を噛むことだ。
 
 Winny ユーザは保健所に駆除されても仕方が無い所にいることを認識しておけ。
 そして、それこそが「シロ」であることにことさら固執する情報セキュリティ屋の表立った支援を受けられない最大の原因であることも気付け。
 Download 板は当事者だから親身になれる。他が手を差し伸べないのは、汚染されているからだ。
 汚染した当人たちがなんとかすべきことだ。紛争なら解決の支援があるかもしれない。しかし、お前らは自分たちの棲家をゴミまみれにしてしまった。その処分にかかるコストは自分で捻出しなければならない。
 
 
 
 
 情報セキュリティのプロや専門家、ワクチンベンダにとって、Winny ネットワークでの出来事は所詮他人事でしかない。
 第三者の情報漏洩でやっと巻き込まれたにすぎない。
 だから、Winny ネットワークを救おうなんてこれっぽっちも思っちゃいない。
 当然、Winny ユーザを救おうとも思っちゃいない。
 そんな奴らの支援を求めたいなら、必死に助けを求めるしかない。ただ助けてくれだけじゃダメだ。やれるだけのことをやってからでなくては。
 商売でやってるほうから見れば、Winny ユーザがどうなろうと知ったことじゃあない。が、間接的に支援はしている。たとえば会社や学校での講演や教育で「偽装EXEはクリックすな」と教える。つってもメールの基礎の基礎の基礎の基礎で教えることだが。
 その程度も理解できない馬鹿は救いようが無い。
 
 救うべきはデータ乞食がばら撒いたリストに載っていた人たちであって、データ乞食じゃない。
 データ乞食を社会復帰させるのが目的じゃない。ノラ犬を管理して狂犬病の被害を減らそう、って程度のもんだ。
 あとは本当の被害者の救済をどうするか。本来なら漏らした乞食にやらせるべきなんだが。さて。
 

*1:当然、俺も含む