だからムリだって。

 
 聯想:指摘されるIBM顧客の流出、迫られる対策
 
 あのね。
 ThinkPadIBM の身を切るようなサポートがあったからこそ信頼されたの。デスクトップ用途は振るわなかったけど、常に携帯してどこでも使えて・・といったシビアな要求に答えられたのは IBM のサポートだったの。
 レノボにはムリだって。連想されるのは顧客離れと失望と溜息だから。
 
 ThinkPad がとくべつ故障しないわけじゃない。俺は最初の ThinkPad から現役まで、五年で三機種五台乗り継いだけど、ぜんぶ一度は壊れてる。俺の使い方が普通より少し荒いっていうのもあるけどね。落っことしたりしてるし、満員電車でギュウ詰めになったりしたし。
 でも、液晶が死んだ i1400 と、マザーボード上で電源回路が死んだ R31 以外はほとんど自分で修理できた。つっても i1400 はもらいものの同型品ジャンクで再生できた。どれだったか、いちど修理に出したことがあるけど、三日だったか四日だったかで工場から帰ってきたよ。電源が死んで修理を諦めた R31 はジャンクででもマザーが生きているものが入手できれば復旧できることがわかっているから保管してあるし。復活できたら監査端末に使えるだろ?捨てるのは勿体無さすぎる。
 保守マニュアルがダウンロードできて、簡単に分解できて、パーツ単位で個人でも発注できる。もしトラブルがあっても救えるんだ。しかも剛性が高くて少々荒く扱っても大丈夫だと思わせる。
 キーボードだけが魅力なんじゃない。大きなポイントではあるけどね。
 
 余計な飾りが無くて、いらないソフトも押し付けられない、メンテナンスがやりやすい。ビジネスユースなら IBM と思わせるものがあった。Dell や HP の進出が少ない日本じゃ特にそうだろう。
 オフィスで VAIO なんか導入するか?しないだろ。わかってる奴は安心して IBM を選んでいたんだ。
 
 ところが家庭向けで売れたのは VAIO だ。ビジネスシーンでは富士通も強かった。俺も ThinkPad に触れる前は富士通サイコーとか言っていたよ。まだ AT/PC とか DOS/V とか言ってた頃な。FM-V が唯一真っ当な国産互換機と言ってもいいような状態だった頃があるんだよ。NEC がシェアトップだった頃。
 なぜか国産だから安心と思っていた頃でもある。
 
 レノボに移っても18ヶ月は IBM ブランドを使う?その後は平行使用?五年後にレノボ統一?
 
 ふざけんな。IBM が売ってるならかまわん。IBM が設計して IBM が検査して IBM が補償して IBM がサポートしているならかまわん。だが、そうでないならやめてくれ。偽物にロゴをつけないでくれ。おまえたちは決して IBM ではないし、おまえらが作るラップトップは ThinkPad じゃないんだ。
 一年後、今の IBM ユーザはどうなるんだろう。アキバや日本橋を、本物の IBM 製品を探して歩くのか。
 IBM のロゴがついた製品を指して「これは本物の IBM のラップトップですか?それとも偽物ですか?」と店員に訊くのか。
 価格対策?やめてくれ。IBM のラップトップが他に比べて割高だったのはサポート代金込みだったからだ。充実した保守マニュアルやパーツ類の保持にかかるコストを俺たちユーザも負担していたんだ。そこを削ってサービスが維持できるのか?
 
 中国は世界の工場かもしれん。最後の巨大市場かもしれん。しかし、まだそれ以上のものではない。
 IBM は赤字部門を負債ごと売り払った。ビジネスとしては正解だ。もし、買ったのがまっとうな企業だったなら。HP でも Dell でも富士通でも松下でもいい。このさい NEC でもいい。ソニーとアップルはダメだ。
 まっとうな製品を出せる企業で、サポートできる体力があったなら、俺はそのままユーザーだったかもしれない。
 
 でも、来年の夏から出てくる IBM ロゴのついた新型は、俺の中でプライオリティは最下位になるよ。どこかの人柱が犠牲になってその信頼性を確かめてくれない限り、仕事で使う気にはなれない。
 必死になって中古を探すだろうね。ハイエンドなら、二年落ちで買っても充分使えるだろう。
 部品が中国製ってのと、ブランドそのものが中国ってのは意味が違う。誰が品質を保証するか、ってことなんだ。
 
 俺は IBM が保証した製品を買っていたんだ。