ISP による「Winny のトラフィック制限」は、現状では間違っている。
前提条件として、いくつか示しておきたい。
まず、ISP 業界は自分達がインフラである、と位置付けている。そのことは「インフラただ乗り」論において、GyaO に代表されるオンデマンドな動画、 Skype に代表される IP 電話、Winny に代表*1される P2P アプリケーションといった、帯域幅を要求するトラフィックを提供あるいは利用している主体が、インフラのバックボーン構築にかかる費用を負担していない、といった言い分からも明らかだ。
ISP の利用料金への上乗せや段階的な課金、従量制への移行といったアイディアも ISP とユーザの間に関係している。
ISP は自分達がインフラであることを認めている。これは大前提。
さて。インフラであるなら公共財だ。公共財ってことは、私的に制限を加えることができる性格の物ではない。たとえば、ホームシアターであれば誰を招くか好きなようにできるが、映画館であれば(料金さえ払えば)誰でも*2映画を見ることができる。
同じように、高速道路であれば、高速道路を利用できる自動車などを運転しているなら利用できる。電話だって基本料金と通話料さえ払っていれば通話の内容で利用を制限されることもない。
利用する条件(合法であること)を満たせば、契約に従ってインフラは利用できてしかるべきものだ。公共財は私財と違って、利用条件は限界まで低い。
ここまでが前提。
インフラが利用を制限する条件として、いくつかのものが考えられる。設備そのものが利用できなくなる状況を除いて考えよう。たとえば高速道路が使えなくなるのは、事故や事件が発生したときだ。事故の場合、事故による影響が利用者に危険を及ぼす可能性がある。事件の場合、すみやかな解決のため一時的に利用を制限する。その他、天候によっては速度規制やチェーン規制が行われるが、これらはみな利用者保護のために規制が行われている。
水道ではどうだろうか。渇水対策で取水制限が行われることがある。これは断水の事態に陥れば利用者に生命の危険が訪れるため、多少不便しても断水までの時間を延ばすために制限を行い、結果的に利用者を保護しようとするものだ。
電話はどうだ。天災、特に地震などで発信が集中した場合、輻輳により通信そのものができなくなる可能性を抑えるため一般の発信が制限されることがある。これは一般の連絡を後回しにしても、救助等にかかる必須の連絡経路を確保することで、やはり利用者の保護を図っていると言える。
このように、利用者の保護のためになら、インフラは一時的にその利用を制限することがある。
道路の規制はまさにそのものだ。信号、重量規制、最高速度。全てが交通の安全、つまり道路の利用者の保護のために設けられた制限事項だ。為政者が好き勝手に規制を行える性質のものではない。
省みて、Winny のトラフィックは何故制限しなければならないのだろうか。
そのことを説明したプロパイダはあるのだろうか。
まずは最初期に制限を明らかにしたぷららを見てみよう。
ぷららの場合は「様々な規制を提供することで、ユーザが選択的に利用形態を限定する」ことが可能となっているプロパイダだ。Winny 規制はいまひとつミスっているが、プロパイダの方向性としては規制手段を多数提供することで、分別のつかない子供がいても利用しやすい形態になっている、といえる。親が規制を申し込んでおけば、子がその回線を利用している限り制限下に置かれる、ということだ。
その形態はアリだろう。URL フィルタリングもどういうフィルタなのかわからないし、パケットフィルタサービスを強化した対応になるのが普通だろ?と思えるため実効性には疑問符がつくが、そのあたりを理解できるのはある程度知識のある言ってみればマニアな奴だろう。ふつうは気にしていないから、わかりやすい宣伝としてサービスするのは商売上充分アリだ。
さて、ぷららのニュースリリースには Winny を規制する理由としてこう書いてある。
昨今、ウイルスに感染したパソコンから「Winny」を介した、意図せぬ個人情報または機密情報の流出が相次いでおります。こうした社会問題を憂慮すべき事態と捉え、皆様に安心してご利用いただけるネットワーク環境を提供することが通信事業者としての責務であるとの考えから検討を行ってまいりましたが、「Winny」による通信を完全に規制する決定をいたしました。 |
Winny を介した情報漏洩が相次いでいる、ということを社会問題として捉え(1)、安心して利用できるネットワークを提供するために(2)Winny を規制する、ということだ。
(1)と(2)がどう繋がるのか全く理解できない。Winny を利用していないユーザにとって、どこかの誰かが勝手に情報を流出させていることによって二次的に被害を受けているわけで、自分が利用しているプロパイダが Winny を規制したところで安心材料にはならない。Winny を利用しているユーザにとっては、「安心して Winny を利用したい」わけであって、Winny を規制されれば(それでも Winny を使いたいユーザは)他に流れるだけだろう。結果として、Winny を規制することで「皆様に安心してご利用いただけるネットワーク環境」を作れてはいない。これが可能になるには、世の大部分のプロパイダが Winny の規制を行わなければならない。ぷらら単独では不可能だが、不可能なことを理由にして規制を行っている。ぷららのユーザは「ぷららが Winny を規制している」ことでは、何一つ安心することはできない。強いて言えば、ぷららを利用していれば Winny を使えないからキンタマでは情報漏洩しない、というだけのことだ。
拾ったデータをダブルクリックしても平気なように、ぷららおむつをつけているとでも言おうか。拾った菓子を食うな、という常識が通じない幼児が客のようでは、ぷららユーザは情報セキュリティに関するリテラシーが低すぎて自分ではケツも拭けませんと言っているようなものだ。客に恥をかかせるつもりでなければ、強制的に制限するのではなく無料オプションとして「Winny 遮断サービス」あたりを提供するべきだった。利用するかどうか選択できるようにしておくべきだったというわけだ。ぷららの「ネットバリアベーシック」と同じようにね。
ニフティはまだプレスリリースが出ていない。そのため、メディア各社から孫引きになる。
Internet Watch では「ニフティではこれまでも、利用規約に則り、迷惑メール対策の一環としてバルクメールの流量を制限するなどの措置をとってきた。今回のファイル交換ソフトに対するトラフィック制限もその流れをくむものだという。」「ニフティでは『会員の方にネットワークを快適に使っていただくために、阻害要因があれば取り除くのがISPの義務だ』と説明」と伝えている。ぷららとは違い、帯域の圧迫を理由に含めているように読み取れる。
日経 IT Pro でもほぼ同様だが、ニフティの広報の説明として「ファイル交換ソフト(ファイル共有ソフト)自体は“悪”ではないので,通信を遮断することはしない。Winnyなどが他の通信に及ぼす影響をできるだけ抑えて,すべての通信がうまく流れるように調整することが(トラフィック・コントロール強化の)目的である」と記載している。トラフィックが問題であると明らかにしているようだ。
あちこちで取り上げられた毎日新聞の記事を載せている Yahoo! News では、「ニフティによると、昨年からつなぎっ放しで回線を占有し続けるなど、ファイル交換ソフト利用者の悪用が目立つようになったのが主な理由。」と記載。
これらを総合すると、ニフティはぷららのように「安心できるネットワーク」を掲げているのではなく、帯域の圧迫を問題にしていることがわかる。要するに宣伝文句の「光ファイバーは現在のインターネット接続技術で提供できる最も高速かつ安定したサービスで、下り/上り速度とも最大100Mbpsと超高速です。」で最大100Mbps使われると迷惑だ、「@nifty光 with フレッツなら、一本の光ファイバーで「電話」も「テレビ」も楽しめる!」けどできるだけ使わないでくれ、「だれでも超高速の光ファイバーがご利用いただけます。」けれど短時間にしといてくれ、そういうことを言っている。広告にイツワリあり、とまでは言い切れないだろうが、あまり誉められたものではない。
さらに、/.J のコメントでは BitTrent や FTP まで制限されているという書き込みもあった。東京のニフティユーザの情報提供を待つしかないが、本当だとしたらかなり無茶だと言えるだろう。広告は誇大広告にあたるかもしれない。
ニフティの場合はぷららとは違って、設備投資(バックボーン増強)を後回しにするために利用者の帯域を絞っているに過ぎないと言える。さらに規約の改定で、ニュースが流れた後に解約しようとした場合は(光の場合だけだったかな?)二年未満のユーザには手数料を課す、ということになったようだ。いい商売してんな。
最初に挙げた、インフラとしての ISP としてみれば、これはありえないだろう。これまでずっと赤字だったわけじゃないはずだ。会員数の増加を見ればバックボーン増強の必要が誰にでもわかったはずだ。
最大100人しか入れない公民館を10個の部屋に区切って「最大100人使えます!」と謳うまではいい。そこに一部屋100人詰め込もうとしたのが間違っているわけだ。
ここまで見てきたことから、代表的な二つの事例がどちらも間違っていることがわかる。
ぷららの場合、対処が明後日の方向を向いているといえる。ぷららにとって Winny を規制することは「会社が安心できる」だけで、会員の安心には繋がらないからだ。自社のクライアントは漏洩なんかしませんよ、と言いたいだけで、会員の保護には役立っていない。
ニフティの場合、自分の経営ミスを Winny の報道でこれ幸いと尻馬に乗って規制を行うことでフォローしているにすぎない。
後続がその程度でいいんだ、とばかりに気軽に規制しはじめるかもしれないと思うとゾっとするね。
Winny を言い訳に私的理由での制限をユーザに課すな。
興味深い。
先日はたしかアクセスできたはずの ISP 規制情報 Wiki が 404
とりあえず Google キャッシュ。
っつうか
ユーザもおかしいだろ。Winny 対策をなんでプロバイダに任せるんだ?
プロバイダは客に「回線を提供して対価を得ている」わけだ。本来は契約どおりの品質のサービスが提供されているならそれ以上プロバイダに責任を負わせるわけにはいかないはずだ。
つうか、spam 制限だってやらなくていいはずなんだよ。spam 奨励してるわけじゃないぞ。俺だって spam うぜえ。でも、spam 規制は迷惑広告を違法化したうえでやるべきなんだ。オプトアウト広告の違法化。それができりゃ問題無い。
できないから問題なんだけどな('A`)
閑話休題。
とにかくだ。なんでもかんでもプロバイダに頼るな。自分でできることは自分でやれ。
Winny 規制を望む前にまずてめえのパソコンから ny を消せ。
キンタマ対策は「Winny で違法ファイルを拾って開くな」これでカンペキだ。
拾ったお菓子は食べちゃいけません、って幼稚園なり保育園なりで習っただろ?
そのレベルもできない奴はそもそもネットに出てくるんじゃねえよ。
それにしても
IIJ はうまいこと規制してるよな。
光の宣伝文句は「ダウンロードが早い」だ。これなら広告に偽りなし。アップロードについては大部分のユーザはほとんどトラフィックを発生させない。自宅サーバ的には微妙かもしれないけど、マルチメディアやらないならまず大丈夫だろう。15GB/24h ってことは、一時間当たり 500MB ちょっとの送出。うまいラインだなあ。常時アップロードが前提のファイル交換系だと制限にかかるけど、ご自宅サーバの人はほとんどひっかからないんじゃないかな。
帯域も充分に制限できていると思う。もし光を最大限使ったとしたら、一秒で 10MB くらいは送れることになるよね。ってことは一時間ぶっ続けだったら 3600 倍して単純計算で 36GB ってことに。すげー。
とはいえ普通はそんなに帯域喰ってうpり続けることは無い。
しかもプロトコルを悪者にしていない。うまいねえ。これならある日突然「お前の持っているソフトは使用禁止」なんて目に遭わなくて済みそうだ、と安心できる。
ニフから IIJ に移るか・・・?
そういや、かつて IIJ つったら憧れのスーパープロバイダだったんだよな。